鍼灸とは?

ACUPUNCTURE and MOXIBUSTION

 世界中で都市化が進み、ストレス、アレルギー、慢性疲労など、先進国特有のトラブルや生活習慣病が蔓延しています。薬物投与や外科治療で対処してきた西洋医学では治せない、病気ではないけれど「何となく不調」。そんな症状を訴える人々が、子どもから高齢者まで、幅広い層で増加しています。
 慢性疲労社会のなかで、古くからの医療が見直され始めていますが、なかでも東洋医学の中核を成す治療法「鍼灸(しんきゅう)」は世界中で注目され、「鍼灸」のメカニズム研究も各国で進められています。
 古くて、現代人にとって新しい「鍼灸」のことをもっと知りたい!おばあちゃんおじいちゃんの世界と思われていた「鍼灸」は今、新たなステージを迎えつつあります。鍼灸とは、いったいどんなものなのでしょうか。

鍼灸は身体全体を診る医学

 東洋医学は、身体をひとつの小宇宙としてとらえ、そのバランスが崩れたときに「病」が発症すると考える医学です。鍼灸はその東洋医学の治療法の一つで、身体の変化を手で触れながら観察して状態を把握し、鍼や灸を施すことで身体のバランスを整えて機能回復をはかる治療法です。

 近年、高齢化、生活習慣病の増加などにより、「未病治(病気になる前の細かな身体情報を基に病気の予防や治療を行うこと)」の考え方が広まる中、世界各国の医療関係者やWHO(世界保健機関)などが鍼灸に注目し、メカニズムの研究も進められ、科学的根拠のある治療法として注目されています。

 鍼灸の起源は石器時代の中国に遡り、日本に伝わったのは奈良時代。中国の僧侶が仏典とともに鍼灸の医学書を携えてやってきたとされています。平安から室町時代にかけて、鍼灸や漢方といった中国医学が日本社会に定着し、江戸時代に入ると、鎖国の影響もあり、鍼灸は日本の伝統医学として独自の進化を遂げていきます。その後、医学界に大きな影響をもたらした『解体新書』が登場し、明治になると政府の西洋化政策によって、西洋医学が台頭しますが、鍼灸はその効果から、民間医療として強い支持を得てきました。

はり

Acupuncture

 鍼治療では、通常、直径0.12~0.18mm程度の極めて細いステンレス製の鍼を使います。管鍼法といって円形の金属あるいは合成樹脂製の筒を用いる方法か、筒を使わない方法がありますが、どちらも殆ど痛みはありません。子供向けの小児鍼は、鍼を皮膚に接触させたり押圧させたりして治療します。

きゅう

Moxibustion

 灸に使うもぐさは、ヨモギの葉を乾燥させて葉の裏側の部分だけを集めたものです。灸の方法には、もぐさを直接皮膚の上に乗せて着火させる直接灸と、皮膚との間をあけて行う間接灸などがあります。間接灸は、皮膚との間に味噌や薄く切ったしょうが、にんにくなど、熱の緩衝材になるものを入れたりして熱さを和らげますので、比較的気持がよいものです。この他にも、灸頭鍼といって、鍼の先端にそら豆ほどの大きさのもぐさを取り付けて点火する方法もあります。灸は鍼灸師の指示に従えば、自宅でも行うことができます。

鍼灸の効果

 現在、鍼灸治療を受ける患者さんの多くは、腰痛や肩こり、ひざの痛みを持った方なので、鍼灸は、こうした運動器の症状だけにしか効かないと考える方も多いですが、鍼灸の効果は痛みだけでなく、身体のさまざまな疾患に効果があります。
 鍼灸の効果について近年の研究では、鍼灸で身体の一部を刺激すると、中枢神経の中にモルヒネのような役割をもったホルモン(内因性オピオイド)が放出されることが解りました。このホルモンが、痛みを脳に伝える神経経路をブロックします。
 また、鍼灸刺激は神経を刺激して血行を促進し、痛みや疲労の原因となる物質を老廃物として排出する作用も持っています。鍼灸刺激は自律神経に効果的に作用し、胃腸や心臓・血管などに作用しその働きを調節します。最近では、ヒトの持つ免疫力を賦活させる働きについても様々な研究がなされ、まだ解明されていない鍼灸の効果も期待されています。
 1997 年には、NIH( アメリカ国立衛生研究所) から、鍼灸療法の病気に対する効果とその科学的根拠を認める見解が発表され、WHO( 世界保健機関) でも、様々な症状や疾患について、鍼灸療法の効果や有効性を認めています。

鍼灸の効果や有効性が認められている症状や疾患

 NIH(米国 国立衛生研究所)による、鍼灸療法で有効性がある病気には、次のものがあげられています。

【神経系疾患】
神経痛・神経麻痺・痙攣・脳卒中後遺症・自律神経失調症・頭痛・めまい・不眠・神経症・ノイローゼ・ヒステリー

【運動器系疾患】
関節炎・リウマチ・頚肩腕症候群・頚椎捻挫後遺症・五十肩・腱鞘炎・腰痛・外傷の後遺症(骨折、打撲、むちうち、捻挫)

【循環器系疾患】
心臓神経症・動脈硬化症・高血圧低血圧症・動悸・息切れ

【呼吸器系疾患】
気管支炎・喘息・風邪および予防

【消化器系疾患】
胃腸病(胃炎、消化不良、胃下垂、胃酸過多、下痢、便秘)・胆嚢炎・肝機能障害・肝炎・胃十二指腸潰瘍・痔疾

【代謝内分秘系疾患】
バセドウ氏病・糖尿病・痛風・脚気・貧血

【生殖、泌尿器系疾患】
膀胱炎・尿道炎・性機能障害・尿閉・腎炎・前立腺肥大・陰萎

【婦人科系疾患】
更年期障害・乳腺炎・白帯下・生理痛・月経不順・冷え性・血の道・不妊

【耳鼻咽喉科系疾患】
中耳炎・耳鳴・難聴・メニエル氏病・鼻出血・鼻炎・ちくのう・咽喉頭炎・へんとう炎

【眼科系疾患】
眼精疲労・仮性近視・結膜炎・疲れ目・かすみ目・ものもらい

【小児科疾患】
小児神経症(夜泣き、かんむし、夜驚、消化不良、偏食、食欲不振、不眠)・小児喘息・アレルギー性湿疹・耳下腺炎・夜尿症・虚弱体質の改善

上記疾患のうち「神経痛・リウマチ・頚肩腕症候群・頚椎捻挫後遺症・五十肩・腰痛」の慢性症状についおて、鍼灸の健康保険の適用が認められています。

(鍼灸netより)

あん摩とマッサージと指圧の違い

あん摩

Anma

あん摩(按摩)の按は「おさえる」、摩は「なでる」を意味しています。古代中国で生まれ、奈良時代に日本へ伝わったとされています。東洋医学の考え方における気血や経絡の変調を調整する手技療法で、衣服の上から遠心性(体の中心から手足に向かって)に施術するのが特徴です。

効 果
主として筋肉のコリコリを取り除き、筋肉内組織の血液循環を良くし、新陳代謝を盛んにします。また刺激を与えて生体の機能調節を図ります。特にお腹に行うことで消化吸収を促進して元気に生活を送ることができます。

マッサージ

Massage

マッサージ(Massage)という言葉のもとはフランス語ですが、その語源はアラビア語の「おす(Mass)」とギリシャ語の「こねる(Sso)」という意味です。ヨーロッパで発祥し、明治時代に日本へ輸入されました。オイルやパウダーを用いて、求心性(手足から体の中心に向かって)に皮膚を直接刺激していくのが特徴です。主に血液やリンパ液の流れをよくします。

効 果
主に循環系を対象に血液、リンパの還流を促し、筋肉や関節などにも多種多様の効果があります。近頃は浮腫(むくみ)に対して効果のある医療的なリンパドレナージなどがあります。

指圧

Shiatsu

指圧は、日本で明治時代末から大正時代にかけ成立しました。衣服の上から、指や手掌(手のひら)等を用い、体表の一定部位を押します。生体の変調を矯正し健康の維持増進を図ったり、特定の疾病治療に寄与する施術です。

効 果
主として皮膚の働きを活性化し、筋肉を和らげ、血液リンパの循環を促します。
また、骨格を矯正し、神経や内分泌の働きを調整し、同時に内臓の働きを活発にします。

ツボって何?

東洋医学の考えでは、全身を気(エネルギー)と血(体液)が循環して身体のバランスが保たれています。気血の通り道は経絡と呼ばれ、経絡が交わるポイント、いわば交差点が経穴で、一般的には「ツボ」と呼ばれています。経絡が何らかの作用で滞ってしまうと病に至るといわれ、これを改善するために、ツボ(経穴)に鍼や灸を施して気血の流れをスムーズにするのです。

ツボの位置が世界で標準化

鍼灸は2000 年以上の長い歴史があるだけに、ツボについて国によって名称や位置に違いが生じていました。世界的に鍼灸への関心が高まるなか、WHO(世界保健機関)がこの問題に関与し、1989年に名称が統一され、2006 年の国際会議で361 穴の位置が決まり、統一されました。これまでの各国のツボの位置が間違っていたということではなく、鍼灸が統合医療の大きな柱として注目される現在、世界的規模で鍼灸のメカニズム研究や臨床研究を推進するための座標を整えたということになります。2008 年5 月には「WHO 標準経穴部位公式版」(英語版)が発刊され、2009年に日本語公式版が発刊されました。

一般によく知られているツボ(経穴)のご紹介

合谷(ごうこく)

親指と人差し指の水かきの間で骨に近いところ。頭痛や歯痛など、痛みがあるときによく効くといわれています。

内関(ないかん)

手のひら側の手首のしわの中央から肘に向かって指幅3 本分のところ。消化器系の症状の軽減に有効といわれています。

三陰交(さんいんこう)

足首の内側、くるぶしから指幅4 本くらいのところ。生理痛や冷え症などに有効といわれています。

足三里(あしさんり)

膝頭の外側、膝から指幅4 本くらいのところ。非常に応用範囲が広く、有用なツボで、胃に気力がないときに生命エネルギーを送り込んでくれるといわれています。

はり師・きゅう師・あん摩マッサージ指圧師は国家資格

鍼灸の治療を行うには、「はり師」「きゆう師」という国家資格(厚生労働大臣免許)、あん摩、マッサージ、指圧等の手技療法を行うには、「あん摩マッサージ指圧師」という国家資格(厚生労働大臣免許)が必要です。

 通常、高等学校を卒業後、厚生労働大臣・文部科学大臣が定めた専門学校や大学などの教育機関で3 年以上の間に、知識や技術を習得し、さらに国家試験に合格することで免許を取得することができます。

 高齢化社会やストレス社会の中で、鍼灸マッサージが注目され、高齢者医療やスポーツ医療など鍼灸マッサージ師の活躍の場が広がるなか、多様化するニーズに対応できる鍼灸マッサージ師の育成が、ますます求められています。

 鍼灸やマッサージの教育機関では、新たな時代のニーズに応え、社会に貢献できる優秀な鍼灸マッサージ師を育成するために、教育の質の向上に力を注いでいます。

 
 「はり師」「きゆう師」「あん摩マッサージ指圧師」の専門学校については、公益社団法人 東洋療法学校協会の「はり師」「きゆう師」「あん摩マッサージ指圧師」の国家試験については、厚生労働大臣指定試験登録機関の公益財団法人東洋療法研修試験財団の、公式ページをそれぞれご確認ください。

◆公益社団法人 東洋療法学校協会
http://www.toyoryoho.or.jp/

◆公益財団法人 東洋療法研修試験財団
http://www.ahaki.or.jp/